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バクマン 感想

『バクマン。』は絵と得意とする真城最高と秀才で文才のある高木秋人の少年コンビが漫画家を目指し、奮闘する姿を描いた漫画。『週刊少年ジャンプ』2008年37・38合併号より連載が開始。2010年12月時点で単行本の売り上げは600万部。その後順調に売り上げを伸ばし、単行本の累計発行部数は1,000万部を突破。それ以降も快進撃を続け、アニメも好評を得ている話題のバクマン。今回はそんな「バクマン。」について触れてみました。
(キャラレビューはこちら)

●ぶっちゃけ感想
『バクマン。』は絵と得意とする真城最高と秀才で文才のある高木秋人の少年コンビが漫画家を目指し、奮闘する姿を描いた漫画。『週刊少年ジャンプ』2008年37・38合併号より連載が開始。『DEATH NOTE』の大場・小畑タッグでの2年ぶりの作品です。これまで漫画家や編集部が登場する漫画やアニメがなかったわけではありません。けれどバクマン。ほどリアルに、青く描いている作品はありません。作中でもサイコ―達が言っているようにバトルもなければ、類型的でもない物語はいわゆる「邪道」です。一般にそれを万人受けする形で作ることは難しいことです。それをやってのけているからこそ、大ヒット作品になったと言えるのがこのバクマンと言う漫画。 作品を知って読者がまず興味を持つのは主人公です。主人公のサイコ―とシュージンは連載開始当初、中学生でありながら大人以上に世界を冷めた目で見ていました。自分は正直「二人のような考えを持っていない読者」がこの漫画を見た場合、それが癪に障り、この主人公達は嫌われていくんじゃないかとみていました。けれど実際は「そういう冷めていた人の心に灯がともっていく熱い物語」であったことで、現代の若者たちにより近い心情が描かれているのじゃないかと思うようになりました。その辺がカギとなり、実際に幅広い年齢層に受け入れられる作品になったのだと考えます。

また、若手作家とベテラン編集という年齢差から生まれる思いの相違が、子供と大人の境を行ったり来たりしている年齢層にも大きな共感を生んだとも言えます。子供が熱くなりすぎる部分は大人が冷静に対処し、大人が情熱を忘れている部分は子供がひたむきになる、そういったバランスのとれた心のやり取りが見どころのひとつと言えるでしょう。

絵に関しては見やすさもあり、丁寧さも感じられ、好印象。ここら辺はさすがに小畑先生と言うところ。大ゴマやギャグシーンも使い分けがしっかりされていて、さらに感情移入しやすくなっています。難があるとすれば、シュージンや、編集側の意見があまりにも専門的かつ知的すぎるため、文字が必然的に多くなり、それに伴いもともと濃かった画面がさらに濃く感じられるところかと。これらによって疲れてしまう読者がいるかもしれません。

今ではすっかり大人気作品の「バクマン。」ですが、これは一昔前ではありえないことでした。まだ「オタク」という言葉に異常な拒絶反応を示してしまう人たちが多かったころではヒットは難しかったことでしょう。ある程度時代が漫画やアニメに対して理解が出てきたことと、連載のタイミングがうまくかみ合ったことで、これほど愛される作品へと成長したと言えるのかもしれません。自分の本当にやりたいことを貫いていくことの大切さを描いている「バクマン。」を読んでやる気を出す子供もいるのでは。現実にバクマンのヒット以降、週刊少年ジャンプに漫画を持ち込む人が増えたと言います。大人からすれば、バクマンに出てくる服部などの「仕事に情熱を燃やす編集者たち」がいい刺激になるかもしれません。

そんな「バクマン。」の良い部分を前半で書いてきましたが、いくつか問題点もあると思います。そのひとつが「主人公達が無条件に愛される体質」だと言うこと。サイコーもシュージンも意中の異性達からは無条件で愛される体質で、それらが「初期設定であり最強の武器」として二人のモチベーションアップに貢献しています。しかし、それらは少々説得力に欠ける印象があります。なぜでしょうか?

まずヒロインの「亜豆」が実際にはほとんどいないような女の子だと言うこと。亜豆の「可愛くて、夢も叶え、献身的であり、主人公の事が大好き」のような設定は言わば男目線の理想の女性。それが極端すぎて「いかにもなアニメのヒロイン」化していることが、説得力の低下につながっている気がします。漫画家やアシスタント、編集者の描き方がリアルであればあるほど、小豆達「理想のヒロイン」が浮いて見えるのではないでしょうか。もうちょっと自然なヒロインであればより感情移入が出来るのかもしれません。愛されない「中井さん」達の描き方もちょっと乱暴すぎる気がします。

そして「俺たちこんなにわかってる」と言わんばかりの主人公二人の戦略がうまくいきすぎていること。ここら辺はデスノートのライトやLなどのいわば「ダークヒーロー」が使えばカッコ良い描写なのですが、バクマンの二人のような主人公はもう少しバカでも良かったのではと思うこともしばしばあります。この「計算する主人公」の描写は大場つぐみ先生の得意とするところで、彼の人気の心臓部でもあり、難しいところですが。

っと、数少ない難を上げてみましたが、作品としては今まで例のないくらい画期的でバランスの良い作品のバクマン。この漫画に出合って人生が変わった人もきっと多いでしょう。これから出てくる人気作家の中から「バクマンを見て漫画家を目指しました」と公言する人もいると思います。そう思うと、ちょっと夢がありますね。【あんず】