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漫画 ワンナウツ(ONE OUTS)感想

『ONE OUTS(ワンナウツ)』は1998年から2006年まで、ビジネスジャンプで連載されていた野球漫画です。 作者は甲斐谷忍。映画にもなった『LIAR GAME』の作者として、ご存知の方も多いかと思います。2008年からはアニメ化もされ、今までにない新感覚の野球漫画として人気の作品となりました。 今回はそんな『ONE OUTS(ワンナウツ)』について、個人的感想を書いてみたいと思います。
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●ぶっちゃけ感想
さて、野球漫画と言われて一番初めに連想するのは、おそらく「熱血」というワードになるでしょう。古いマンガで言うと『巨人の星』、最近の漫画で言うと『MAJOR』など、いつの時代にも熱血野球は付き物です。ところがこの『ONE OUTS』。一筋縄ではいきません。アツイどころか、体感温度的にはむしろ氷点下。野球漫画の典型的熱血概念を、この作品はことごとく覆してくれます。
異色の野球漫画として「おおきく振りかぶって」も近年話題になりました。少女漫画のタッチとそれに似合わぬ戦略的野球、等身大で憎めないキャラ達が人気になり、女子さえも飛びついた通称「おお降り」。しかしこの「ONE OUTS」はその「おお降り」と比べても遜色が無いどころか、異色度では上と言えます。まあ、読者層は大分違うでしょうが…。横道にそれましたが、まずは「ONE OUTS」の特徴から見てみましょう。

話の始まりは沖縄のとあるグラウンド。ワンナウツと呼ばれる賭け野球の会場でした。冒頭部分からアウトローな雰囲気を匂わせてくるこの作品は、そもそも主人公が博打打ち。負け知らずの勝負師ピッチャーがプロ野球界に殴り込みです。 こんな野球があってたまるか。そう言われても仕方がない。 。 野球ファンや熱血ファンの方々はこういう作品どう思うんだろうと、ぼんやりと心の片隅で思っていました。利欲、策謀、駆け引き、裏工作。この手の話題が続々です。

主人公たる渡久地は、金髪釣り目のチンピラ風兄ちゃん。パッと見で受ける印象は、「野球舐めてる…」。 あまりに型破りなものですから、正直なところ慣れるまでは違和感で一杯でした。 しかしこの作品、そのような固定観念には決して負けないようです。私の違和感なんて幻想でした。たとえ練習風景が滅多に見えなかろうと、野球と言うより場末の飲み屋みたいな空気感が漂っていようと、渡久地の勝負師スキルは一度見たら歓声ものです。

「ほぉ…」、「おぉ…」、「おお…っ!」

こういった感じに、期待感は回を追うごとに膨らんでいきました。なんと言っても、敵をハメる渡久地の策士ぶり。敵を欺き味方を驚かせ、弱小チームを連勝へ導いていく、計算しつくされた心理操作は華麗なまでの域です。(感想その2へ続く)

そんな異色野球漫画「ONE OUTS」ですが謀略にまみれた野球なんかが、どうして爽やかに成り立つのか。おそらく、出てくる敵がこぞって好感の持てないタイプだからでしょう。
金銭欲満載な球団オーナーや、試合に勝つためならどんなイカサマだってやってしまう敵チーム等々。主人公がハミ出し者なら、周りの登場人物達も百パーセントやりたい放題です。私は未だかつて、このようなダーク集団に出会った試しはありません。金と利権が渦巻いています。そしてそれを気持ちいいくらいに、バッサバッサと切っていく渡久地。ところがそこは野球漫画だからか、時たまアツイ奴も出てきてくれます。チームメンバーの奮闘や苦悩シーンがあったり、渡久地を勝ち取りたい本気モードのバッターなんかが現れたり。彼らのような真っ当な存在がいてくれると「お、野球っぽい」などと至極当たり前なことを思ってしまいますね。いい刺激です。

こんな感じに常識はずれな野球漫画ですが、渡久地も意地悪い策略ばっかり繰り広げてはいません。対戦相手毎に、物語の核心に迫ってくると不意に放たれるキメのセリフ。内容はまあ、弱肉強食を説いてみるとか、人生のディストレスを諭してみるとか、極めて殺伐としてはいますが。
敗者は勝者に服従。それが人生の鉄則。アニメ版のラストは、こんな感じでまとめられました。 どの説教も納得はさせられます。確かに…と。極端な話、「人生イコール博打」みたいな結論にまで達してしまって、ちょっと困っています。派手なアクションのない作品はニーチェ並の際どい哲学を突き付けてくるので、心して見ないと確実にオチます。

『ONE OUTS』とはそういう作品です。簡潔に締めくくってしまえば、とにかく息をのむ面白さ。ジワジワと地味に侵食される、他ではお目にかかれない心理野球です。今回は『ONE OUTS』の感想でした。 【わこ】